中山屋誕生秘話インタビュー③ のび太と呼ばれたボクがつくった、どらやきのための「こしあん」

中山屋誕生秘話インタビュー③ のび太と呼ばれたボクがつくった、どらやきのための「こしあん」

全国のこしあんのおかしを食べ尽くしてきた中山屋代表が作り上げた、究極のこしあん。
さっそく熱烈なファンから、「追いこしあん」を発売して欲しいという声が届いています。
手間暇がかかるこしあん作りの過程に迫ります。

― 中山屋のこしあんの特徴を教えて下さい。

開発の際に目指したのは、とことんなめらかで雑味がなく、
小豆の風味がしっかり感じられるこしあんです。
なので、どらやきの皮同様、ひたすら試作を繰り返し、納得できる今の味に、たどり着きました。
でも、これからまだまだ改良して、より美味しいこしあんを作っていきたいです。

― 正直、こしあんの雑味って、あまり意識したことがありませんでした。

小豆を茹でる際の「渋切り」や、小豆を濾したあとの「晒(さら)し」が足りないと、
小豆独特のエグみや渋み、苦みなどの雑味が出るのです。
でも、やりすぎると小豆の風味まで抜けてしまう。さじ加減が難しいところです。

― 「渋切り」や「晒し」とは、どんな行程ですか?

渋切りは、小豆を茹でたあとに煮汁を捨て、水を入れ替えて、もう一度煮る作業です。
繰り返すほど、アクやタンニンといった渋みや苦みが抜けます。
晒しは、小豆を濾したあと、水に浸す作業です。
あんが沈殿したら上澄みを捨て、また水を入れ替え浸します。
こちらも繰り返すほど、渋みや苦みが抜けますが、あんは白っぽくなり、小豆本来の味も抜けていきます。

― 色の違いが、こしあんの味と関係するんですね。

ええ、濃いむらさきがしっかりして美味しそうだなと思って食べてみると、
苦みがあって残念だと感じることもあるし、
白っぽいこしあんは雑味がないものの小豆の味がほとんどせず、
「自分は何を食べているんだろう」という気持ちになることもあります。

― なるほど、ひとくちにこしあんといっても、大きな違いがあるのですね。

はい。小豆の種類やその煮方、あんの濾し方などで、味はまったく変わってきます。
こしあんが大好きなので、基本的にはすべて美味しく頂いていますし、
既存のお店でリスペクトしているこしあんもいくつかあります。
でも好きなだけに、ちょっとした雑味や味の抜け具合がとても気になるんです。
だから、「こしあんのどらやき」のあんは、渋味や苦味がなく、
小豆の美味しさがぎゅっと詰まっているもの、自信を持ってお届けできるものにしたいと思いました。
これまで、全国のこしあんのおかしを食べてきた舌感覚を頼りに、
「自分史上最高」の味を見極めていきました。

― 最高のこしあんにするために、他に意識した要素は?

上品ですっきりした甘さと、口当たりのよさです。
糖度については、本当にギリギリまで悩みました。5%刻みで何人にも試食してもらい、
最終的には、満足感がありながらも、しつこくない甘さにたどり着きました。
それから、あんのなめらかさを出すために、濾す際に使う網の目の細かさにもこだわりました。
網の目が細かすぎると、作業の都合上、水を多用することになり、これもまた味が薄まってしまうんです。なので、探して回って、理想のなめらかさが出せる網を選びました。 

― そんな試行錯誤を1年半ですよね。途中で嫌になりませんでしたか?

こしあんが大好きなので、嫌になることは一度もなかったですね。
でも、こしあんはできるまでには作業時間がかかります。たまに分量を大幅に間違えて失敗し、
作っている途中で、試食する必要すらないと気づいた時には、さすがにへこむこともありました(笑)。

― そもそも…なのですが、中山さんはおかし作りの経験はおありになったんですか?

いいえ、僕は「食べる専門家」だったので、こしあんのおかしをとにかくたくさん食べてきましたが、
本格的なおかし作りの経験はなかったんです。だから、和菓子教室に行くところから始めました。

― そこからだったのですね! 驚きです。経験ゼロから、
さまざまな失敗を乗り越えてこられた理由は何でしょう。


試作するたびに、「ああ、やっぱりこしあんっていいな」と毎回思ったんです。
理想にはまだ遠い頃から、「こしあんのどらやきって、本当に美味しいよな」と。
だから全然つらくなかったし、紆余曲折はありながらも、
着実に目指す味に近づいていくので楽しかったですね。

― これから中山屋では、どんなおかし作りを目指していきたいですか?

僕自身がそうなのですが、美味しいおかしに元気づけられたり、癒やされたりする事ってありますよね。
また、上質なおかしを食べたことで、その日がちょっと特別な一日になることもあります。
そして、そんなおかしは大切な人にあげたくなる。
中山屋のおかしがそんな存在になれるよう、良い素材を厳選し、
妥協することなく丁寧なおかし作りを続けていきたいです。

― ありがとうございました。最後に、ちょっと失礼かもしれませんが……、
中山さんは『ドラえもん』の、のび太くんに雰囲気が似てらっしゃいますよね。

実は、会社員時代の愛称が、「のび太」でした。
中山屋第一作をどらやきにしようと決めた時、そういえば、僕のあだ名は「のび太」だな。
のび太と言えば、『ドラえもん』……。『ドラえもん』と言えば、どらやきだと。
ちょっと運命的なものを感じました(笑)。

― のび太くんは、優しい性格で多くの読者に愛されていますね。
「こしあんのどらやき」もさらに広がり、
たくさんの方に長く愛されるおかしになることをお祈りしています。


ありがとうございます。
次回は、こしあんのバウムクーヘンを発売予定ですので、楽しみにしていて下さい。
皆様のお声を頂きながら、常に進化し、
さらに美味しいこしあんのおかしを創り続けていきたいと思います。
中山屋のおかしを末永くご贔屓にして頂けると嬉しいです。

(終)

インタビュー/構成:江藤ちふみ(ひゅうが書林)