中山屋誕生秘話インタビュー② もち粉と格闘した一年半

中山屋誕生秘話インタビュー② もち粉と格闘した一年半

「こしあんのどらやき」の皮は、しっとりもちもちした食感と、ほのかな甘さが特徴です。
「もっちりしたパンケーキみたいで美味しい」と、子どもたちからも大人気の皮の秘密について伺います。

― さっそくですが、「こしあんのどらやき」の皮の開発は、どこから始めたのですか?

まずは、原材料選びからです。生地に弾力を加えるために、もち粉を使うことを考えました。
もちもちの食感を長く保つためにタピオカでんぷんを混ぜることがあるのですが、
国産のものがないため、もち粉を使うことにしたのです。

― そうか、もち米でできているもち粉を使えば、当然もっちりするわけですね。

はい。でも、小麦粉との配合には悩みました。
極端なところから始めないとベストな割合はわからないので、
はじめに、もち粉100%で皮を焼いたんです。
するとすぐ固くなるし、膨らみが弱かった。
そこから、1年半かけて試行錯誤し、理想の配合にたどり着きました。
開発当時はまだ会社勤めをしていたので、休日になると試作を繰り返していたのですが、
グラム単位で配合を変えて、毎週、焼きに焼きました。

― なんと、1年半もかかったのですね。

他の原材料の選定や配合、焼き加減の調整などにも、時間がかかりましたから。
たとえば小麦粉であれば、強力粉、中力粉、薄力粉をすべて試すところからです。
産地や品種もさまざまなので、全国各地の小麦粉を試し、北海道産の薄力粉にたどり着きました。

― 小麦の品種によって、味が違うのですか?

味というより、皮にした時の歯ごたえが違います。
納得いく品種を数種類にしぼり、最終的には、出身地である北海道産のものを選びました。

― 小麦粉だけでも、かなりの種類を試したのですね。

はい。ものは試しで、アメリカ産のケーキ用薄力粉で試作したこともあります。
というのも、
僕が知っているだけでも数十店の有名ケーキ店で使っているアメリカ産薄力粉があったんです。
もし、国産の薄力粉よりもそちらのほうが断然美味しかったら、
国産食材にこだわるコンセプトから考え直さなくてはならないと思っていました。
試したところ、たしかに美味しかったのですが、もっちりではなくサクっとした食感だったので、
やはり北海道産に決めました。

― 砂糖は、どのようにして決めたのですか?

上白糖やグラニュー糖、きび砂糖、和三盆などいろんな種類を試しました。
これも北海道産のてんさい糖を使いたかったのですが、
何回試しても皮の焼目がまだらになってしまうんです。
それで最終的には理想的な砂糖に出会ったんですが、すみません、
これはちょっと企業秘密にさせてください(笑)。

― 砂糖選びにも、手間と時間がかかったのですね。

ええ。でも、まだ理想の皮とは言えませんでした。

― そうだったのですか。何が問題だったのでしょう?

目指したのは、つきたて餅のような口当たりと、しっとりした食感が同居する皮でした。
しっとり感を出すためにはどうすればいいか。それが課題だったんです。
天然の添加物を使う方法もありますが、僕の変なこだわりで、
できるだけシンプルな内容表示にしたかったんです。

― では、どうやってしっとり感を出したのですか?

蜂蜜です。蜂蜜には保湿効果があり、生地を柔らかくしてくれるのです。

― 「こしあんのどらやき」の皮を持つと指先が少し湿るのは、蜂蜜を使っていたからなのですね。

皮には砂糖も入れていますが、しつこい甘さにしたくなかったので、
砂糖よりも蜂蜜のほうをたっぷり使っています。
蜂蜜の種類もいろいろ試しました。レンゲ、アカシア、トチノキ、百花蜜…。もちろん、すべて国産です。
ミカンやリンゴの蜂蜜も試してみました。
その中で、もっとも爽やかで、こしあんの味を邪魔しなかった蜂蜜がアカシアでした。

― 国産の蜂蜜が砂糖より入っているなんて、ぜいたくですね。

実を言うと、国産の蜂蜜は貴重で、価格も中国産やカナダ産の10倍くらいするんです。
他の材料も含めて国産で作りたかったので、
多分、世の中のどのどらやきよりも原材料が高くなってしまったのですが、
妥協せず、納得できる原材料を厳選しました。

― そこまで材料を選び抜き、しかも添加物を一切使わない。その理由は何でしょう?

そうですね。繰り返しになりますが、自分自身が毎日食べたいと思えるどらやきを、
皆さんに食べて頂きたかったからです。
そして、「ああ、食べてよかったな。美味しかったな」と感じられるものは、
やはり品質がいいものだと思うからです。

― 丁寧に作られた質のいいお菓子を食べて、心が豊かになったり、
イライラしていた気持ちが癒やされたりすることってありますよね。


ええ。その話につながるかはわからないのですが、発売後に意外だったのが、
「中山屋のどらやきは、優しいですね」という声をいくつも頂いたことです。
実は、中山屋は「優しさ」を大切にして、おかし作りをしていきたいと考えているので、
嬉しいご感想でした。

― 手のひらに乗るコロンとした形、しっとりした口当たりなど、
たしかに優しいどらやきだなという印象を受けます。


ありがとうございます。先日、もう一つ、とても嬉しいご感想を頂いたんです。
拒食症の10代の娘さんを持つお母様からのメッセージで、
食べ物をほとんど受け付けない娘さんが「こしあんのどらやき」だけは食べられたと。
しかも、2つも食べたので家族中で驚いたとのことでした。
とても喜んでくださって本当に良かったと思いました。
お見舞いや、元気のない方へのエール代わりに贈って頂く。
そんな場面でも「こしあんのどらやき」を役立てて頂ければいいなと考えています。

― それは、嬉しいメッセージでしたね。
「こしあんのどらやき」は卵や蜂蜜が使われていて栄養豊富なので、
朝食代わりにパクっと食べて、一日の活力にするのもいいですよね。

次回は、いよいよこしあんの開発について伺います。

インタビュー/構成:江藤ちふみ(ひゅうが書林)